本能的に働く防衛機制
人は、自分自身が変わることを、極端に怖れます。
心は、本能的に、今のままを維持するようにはたらきます。
そのはたらきを示すのが、防衛機制です。
防衛機制とは、周りに何か受け入れがたいことが起こったり、または自分自身が本能的に危険な状況にさらされたりした時に、自ら不安を軽減しようとする心理的反応のことを言います。
わかりやすい例 ➡ 失恋への対応における防衛機制をお読みください。
心理学者ヴァイラントは、防衛機制を4段階に分類しています。
また、生物学や脳科学の分野でも、防衛機制のはたらきが立証されています。
その1 攻撃すること
古来、人間は我が身を脅かす存在に対して、本能的に身を守るために外的と戦ってきました。そうして、先祖から代々DNAとして受け継がれたものが脳に書き込まれ、本能として身に付けています。
社会生活においてこれが過剰に働くと、他への攻撃性を生み出してしまいます。過剰な防衛本能が、自分が実現したいことを邪魔するものや人に対して、「やられる前にやっつけてしまおう」という行動に発展することがあるのです。そして、その結果として身の周りに敵を作り出すことになり、反対に苦しさを受け取ることになってしまいます。
その2 慣れること
どんなに好きな食べ物でも連日食べれば飽きがきます。脳は、初めての刺激に対しては大きく反応しますが、同じ刺激が繰り返されると、疲労するために刺激が継続することを避け、フラットな状態に和らげようとする働きがあります。これが、飽きることによる防衛本能です。
良い刺激であっても、その刺激が繰り返されれば、脳は疲弊してしまいます。反対に、肉体的な痛みや精神的な苦痛を受け続けることに反応し続ける場合には、慣れることでそのストレスを軽減しようとします。
新しく勤め始めた仕事に初めは緊張感をもって取り組んでいたのに、しだいにその緊張感を緩和するために慣れが生じて、手を抜いたり、正確さや慎重さを欠いたりして、重大なミスにつながることがあります。
また、結婚当初は、お互いのことをわかり合い、愛情をたっぷり感じ合っていたのに、しだいに物足りなさや飽きが生じます。しかし、慣れることで、自我の抑制がきかなくなり、夫婦げんか・浮気・不倫につながったりします。
このように、我々の行動は自覚することのない本能的に持つプログラムに従って引き起こされていることがあります。
潜在意識の領域
フロイトやユングの研究で有名な意識・潜在意識の概念があります。
意識しようとしてもできない心の領域を意味し、ここには忘れてしまいたい記憶・抑圧された感情・生成された感覚・見えない願望などが押し込まれています。
意識と潜在意識の関係は、氷山に例えられることがあります。
意識とは目に見える水面に浮かぶほんの一部分で、潜在意識とは見ることのできない水面下にある巨大な部分です。
私たちの潜在意識は、生まれてから今までの経験によって作られていると言われています。
多くは、幼少期の時に親や周りの人たちから言われたことや、その生活環境などからその人なりの思考パターン・反応・思いこみを形成しています。
いくら言ってもわかってもらえなかった悲しさ。
母親が外で働いて、一人で留守番をしていたときの寂しさ。
子供のときに学校でいじめを受け、誰にも打ち明けることができなかった悔しさ。
感情は、潜在意識の中に眠っています。
人の意識は、この潜在意識が9割を占めるとまで言われています。
潜在意識は、普段は自覚することはなく、その存在を考えることもありません。
しかし、誰もが氷山の地盤のようにもっているものです。
そして、人は気がつかないうちに、この潜在意識からのメッセージを受け取って行動しています。
潜在意識の領域で起こっていることは、心理学の中である程度体系化されてはいますが、実際は未知の部分がたくさんあり、今後ますます解明されていく分野です。
潜在意識の中にこそ、本当の自分が存在している。
詳しくは、変わるためには自分の潜在意識と向き合うことをご一読ください。動画解説も在ります。
サーカス象の話
下の小さな象の話は、よく心理学で引き合いに出される例です。
サーカスの象は、小さい頃に足を鎖でつながれていて、初めのころは鎖から逃れようとしますが、暴れれば暴れるほど足の鎖が肉に食い込み、痛みに耐えきれずに最後にはあきらめてしまいます。そして、大きくなり、巨大な力が備わっても鎖を切って逃げようとしなくなります。なぜなら、小さい頃に「鎖は切れないものだ。」という観念が備わってしまったからなのです。
動物でも人間でも、困難な状況に対して防衛本能が働き、それを思考のプログラムとして学習します。例えば、親から度々叱られた経験は、「おとなしくしていればいい。」「言うとおりにしよう。」という観念を生み出します。これが、心の中に思考パターンとして定着して、成長してからもそれに従って行動するようになるのです。
これは無意識の領域に定着するので、たとえ成人になって、生活環境が変わっても、目に見えない鎖につながれていて、縛りを受け続けるというのです。
そして経験を積むほどに、学習したことは定着していき、行動が習慣化されていくのです。そのために、この思考パターンを拭い去ることは容易ではありません。しかも、それを自ら必死に守ろうとさえするのです。周りの人が、「あなた、間違ってるわよ。」と言われても、なかなか行動を変えることができないのも、防衛機制によるものです。
しかし、人間の脳は、至ってシンプルです。
よりよいものだと認識さえすれば、以前の思考パターンはいとも簡単に変わります。
現在、結果として苦しさを受け取っているのなら、その原因となる思考を変えてみようと思うことは、脳で考える人間だからこそできる自然な行為と言えます。
過去のトラウマ
子象の体験と似ていて、人間にも同様のことが起こりえます。誰にでも、この小象と似たような状況をもちながら大人になっているのです。あなたは「子供のころにあった思い出したくないこと」が思い浮かびますか。
例えば下のような経験です。
傷ついた心は、心理学では「トラウマ」と呼ばれます。
人の心が昔に向いたときには、それが何か取り残しているものや未解決なものがあるサインなのです。
例えば、親から叱られた言葉がよみがえってくるのなら、わかってもらいたかった心を抱きしめてください。
親に愛されなかったのなら、愛されたかった子どもの自分を抱きしめてあげてください。
未だに癒されない心を持っていれば、
の手順で、心を手放す段階にまで順にすすめていきましょう。
変えられないものに時間を費やし、踏みとどまっているのは、大きなエネルギーロスであり、時間の無駄遣いです。
なぜなら、そう決めることも、前へ進むことも、あなた一人で決断し、行動できることですから。
変えるべきは、そこから作られた自分の思考パターンです。
トラウマは、思い込みですから、書き換えることが可能です。
詳しくは、過去をリライトするカウンセリング事例をご一読ください。
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